2012-08-29

珈琲 エリカ

突然『珈琲 エリカ』のことを思い出しました。
何度行ったかな。三回、四回。
五回目に久しぶりに通りかかった時、扉に「しばらく休みます」のはり紙を見つけて。
しゅんとしたのと、あの素敵なマスターに何か起きてしまったのだろうか、、と言う胸の張り裂けそうな想像とで
私はしばらくその場から動けなくなってしまった。

はじめてエリカを訪れた日、私は道に迷ってしまって神田にあるもうひとつのエリカに辿り着いたんだよね。
一杯珈琲を飲んで、ひと休みをして。
外に出て目的のもうひとつのエリカに電話をかけた。
そしたらすごく紳士に親切に道案内をしてくれて、「お待ちしてますね」ってやさしく電話を切ってくれた。
やっと辿り着いたエリカの扉を開けると、カウンターの常連さんと静かにお喋りをしながら珈琲をおとすマスターがこちらを向いて、
「お電話の方かな?」と出迎えてくれた。

何を注文したのかなぁ。ぼんやり光の膜が張ってるみたいな記憶の中の光景。
小さくてでもとても重たい木の椅子とテーブル。
背筋のシャンとした白髪のウェイター。
酸味のある美味しい珈琲。うん。そうだね。珈琲を注文したんだね。
その頃あたしはカフェマヌカンをしていて、カフェや喫茶店での接客というものにすごく興味を持っていた頃で。
そんな頃に出会ったここエリカの接客は、未だ私の中で不動のナンバーワンです。
つかず離れず。テーブルに珈琲のカップを置いた後の、手の、指先の丁寧な仕舞い方。
私の生まれるずっと前から、ここではこうして丁寧に静かに人を迎えていたのだなって。
たくさんの人達の時間がきっとここにはあって、でもきっと誰も干渉なんてしない。
時間と場所の提供。そこに美味しい珈琲があるだけ。
あるだけ。

私は確か、持っていたノートにエリカの店内を小さくスケッチしたはず。
椅子の背もたれが可愛くて。

帰り際にマスターといくつか言葉を交わした。
でもこれは内緒。
なんとなくとっておこ。




きのう昼間、こんな感じに私はエリカを思い出して、
それと同時に最後に見た「しばらく休みます」のはり紙の意味がまた気になって仕方なくなって少し検索をしてみました。
(んん。珈琲エリカには本当はアナログな方法が似合う気がしたのだけれど。)

あの素敵なマスター(店主)は、私があのはり紙を見つけたあの頃、他界されていました。
店主・会沢輝男さん。
当時、何かの雑誌で読んだ会沢さんのインタビュー記事の一文が私は忘れらんない。

ー「もう戦争には行きたくないと思ったから」と、マスターは開店のきっかけを語る。ー

そうやって珈琲エリカは生まれたの。
そういう、一人の思いからつくり出されたものなの。
一人歩きをよくしていたあの頃の私。20代に突入したばかりのあの頃の私。
時は流れるね。
時って放っておいても流れるのね。
窓際の、あの白くて淡い光が静かに射し込む角の席。
あの場所でした考えごとは何だったろう。
あの頃の考えごとを今の私は解決させることが出来たのかな。

会沢さんの淹れるあの珈琲はもう飲めないけれど、でもあの場所を通過した私の時間はまだ続いてる。
丁寧で重みのある時間を過ごしていきたい。見失わずに。



珈琲エリカを思い出しながらそんなことを思ったよ。




















( 見つけた!昔の日記帳の中に描かれてた。その日の椅子とテーブルと壁のスケッチ。2004年12月1日13時11分。)

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